内照式サインのLED化に伴う、路線印刷色の色調整2007

この色調整はなぜ必要なのでしょうか。

ひとつは、東京に路線色が異なる13路線の地下鉄が走っているから、識別できなければなりません。もうひとつは、光源によって色が異なって見えるため、調整が必要なのです。

学術研究の成果を見ていると、実空間との隔たりを感じることがあります。 一方、我々の仕事は評価要素がありすぎて、学術的に分析し結果を求めることは難しいと感じることが通常です。しかし曖昧で感覚的に答えを求めるのではなく、納得できる答えを見つけるために、研究者の協力を仰ぎ、プロジェクトを遂行していくことがあります。

内照式サインはシルクスクリーン印刷という、微調整が可能で色の再現性が高い手法をとっているから検証が可能なわけです。 (協働 横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授 岡嶋克典先生)


カラーバリアフリーを実現するためには、実際のサインを作成し、それを色覚異常者らに観察してもらい、問題があれば修正して再度観察する、を繰り返すことが必要です。しかし、これらの作業は容易ではなく、また定量的な分析が困難であり、東京メトロの駅サインのように多くの色を調整するには適当な方法とは言えません。そこで、サイン素材と光源の分光データを測定して色覚計算シミュレーションにより問題点を定量的に抽出・分析して問題点を改善することで、素材や光源を変えた場合の再評価や改善が容易になりました。

東京メトロは2008年副都心線開業時にLED光源の内照式サインに導入しました。この設計段階で色覚バリア当事者による見え方調査(2007年)を行い、表示色を補正しました。この調査時点では、実際導入するLEDサインの製作会社が決定していたため、補正は個別の対応です。その後LEDランプの性能が向上したため、当時の色補正値をそのまま使うことは妥当ではありません。

2012年の検証は標準化を目的としたものです。多種のLEDランプ製品、多くのサイン製作会社の印刷色の検証が可能なので、シミュレーションによる検証を実施しました。

1. 目的

サイン光源が蛍光ランプからLEDランプに切り替わることで、日本人男性の約5%に相当する色覚異常者にサイン識別問題が生じないかを色覚計算シミュレーションを用いて検証し、問題が発生しそうな場合にはその対策も検討し、誰にでも見やすい駅サインの実現を目指します。

2. 方法

今回は、印刷色ならびにアクリル板の分光透過率と光源の分光分布を測定し、分光計算から測色値を求め、色覚異常者と色覚正常者の色識別性を定量的に検証しました。色覚異常者の色識別は、色覚異常者が見分けにくい色の軌跡、混同色線(注1)を用いて検討した。色覚異常タイプとして一般的なP型とD型でシミュレーションを行ないました。

解析の結果、D型で大丈夫な組み合わせであればP型でも大丈夫であることが分かりました。